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【読書ログ】読売新聞朝刊一面コラム - 編集手帳 - 第三十一集

 書く力を読んでファンになった竹内政明さんが、読売新聞で連載する「編集手帳」をまとめた一冊

 

6月から12月まで、詩・短歌・俳句などを用いてその日の出来事にコメントしている。

知識の幅とブリッジのかけ方は、読んでいて本当に参考になる。

 

気に入った文章は、上に書き写して、その感覚を自分のものにしようとしている。

 

その中でも、特に秀逸だと思う日をピックアップして、紹介したいと思う。

 

7月15日から

 

ーー以下抜粋

 

「退任」のお心

 

モミジの上に載せれば、透き通った露も赤く染まって見える。〈紅葉に置けば紅の露〉という。多くの人がその言葉に思い当たるのは、誰かの悲しみに触れたときだろう。

 

津波や豪雨の被災者に会えば、濁流の色に心は染まる。むごいテロ事件の報に接すれば、炎の色に心は染まる。人の痛みが自分の痛みとなり、しばらく癒えることはない。優しい心であればあるほど、そうだろう。悲しみとは伝染するものである。

 

人の悲しみに接し、共に悲しみ、慰めることを公務にされてきた方である。82歳になられて、お疲れでないはずがない。

 

天皇陛下が生前に「退任」する意向を持たれているという。公務を減らしてまで天皇位にとどまるつもりはない、と。公務を何よりも重んずる強い使命感に発したお考えだろう。政府は、皇室典範の改定なども視野に、必要な準備を進めていると聞く。

皇后陛下に。初夏の思いを詠まれたお歌がある。

〈我ら若く子らの幼く浜名湖の水辺に蛍追ひし思ほゆ〉

濁流や炎の色ではなく、蛍や若葉やモミジの色に、お二人でゆっくり染まる時間を差し上げたいと、心から思う。

 

ーーーーーーー

 

津波や豪雨の被災者に会えば、濁流の色に心は染まる。むごいテロ事件の報に接すれば、炎の色に心は染まる。

 

この一文は自分が書けるようになるとは想像できないほどに美しい。

 

そして、

人の悲しみに接し、共に悲しみ、慰めることを公務にされてきた方である。82歳になられて、お疲れでないはずがない。

天皇陛下が生前に「退任」する意向を持たれているという。

最後まで誰の話なのかは書かず、次の文章の主語で”天皇陛下が”とするところに技術の高さを感じる。

 

このような文章を毎日書き続けるために、相当な知識とネタを日々蓄積し続けているのだろう。

 

見習わなければ。